記事に猟奇的、同性愛的、表現が含まれることがあります。

レウコトリカ

 どこまでも続く青と碧の境界線、白く照り返す水面に一隻の船が一筋描いていった。船上の潮風に乗るカモメたちの嘴の先には大国ドレスタニアが見えていた。
「おい、ねえちゃん、もうすぐドレスタニアだ!降りる準備しな」
 甲板の端で縄の整理をしていた何日も手入れをしていない汚い髭の男が、目先の大陸をかじりつくように見ている女に声をかけた。女は声のしたほうに振り向くと子供のような笑顔を見せた。
「あれ、ドレスタニア?」
 女は蛮族風の格好をし、アルビダの女には珍しい均整のとれた体をしていた。色のない髪の毛に縁取られた小さな顔は女性としての魅力に溢れていたが、どこか幼い印象があった。
「おうよ、あんた家族に会いに行くんだって?」
「レウ、兄さんに会いにいく。サグヌ草、くしゃみ、原因じゃない」
 妖怪の女は言葉を覚えたての赤子のように答えた。
「最後らへんのことはおれにはわからねえが、あんたに似た兄貴ならたいそうエラい男なんだろうな」
 男はへへっと鼻をこすりながら笑った。女は一緒に鼻をこすりながらにんまりと笑った。

 ドレスタニアの港町には沢山の漁船や貨物船が停まっていた。貴族が個人で所有する装飾きらびやかな船もあったが、ほとんど使われている様子はない。女たちの乗っていた船は明らかにそれらのどれでも無かったが、港はそれを受け入れた。
 甲板の上では先ほどの髭の汚い男が忙しなく行ったり来たりし、船に乗っていた海の男たちは自分の持ち場で作業をしている。帆を畳み、錨を下ろし、港から渡しが渡されるのを待っていた。
 女は船上から港町を見ていた。漁師たちが漁船から釣った魚を港市に卸しているのが見える。磯の香りと露店で調理されている魚の香ばしい匂いが彼女の鼻をくすぐった。
 その露店の傍に彼女の見覚えのある人物がいた。真昼の太陽が照りつけるというのに黒い皮の外套を羽織り、白い髪をうっとおしそうにのばした背の高い男が品物を物色していた。
「兄さん!」
 船上の女は兄と呼んだ男に向かって手を振ったが、もちろん気がつくはずもない。彼女は船の縁を飛び越えて数メートルある港の石畳へ着地した。船上と港で船を繋いでいた乗組員はその姿に驚いて目を丸くした。妖怪の女は飄々とした姿で露店へ走っていった。

「兄さん!」
 狼を思わせる速さで人混みを縫うように走る色素の失せたアルビダの女は兄と呼ぶ男に勢いよく抱きついた。見るからに虚弱そうな見た目をした男は勢いに耐えきれず尻から地面へ倒れた。
「…レウコトリカ、ひさしぶりだな…」
 力なく答えた兄はドレスタニアの裏通りでドクター・レウカドと呼ばれている医術の紛い物をやっている男であった。妖怪への差別が激しいドレスタニアで決して良いとも言えない商売をしている物好きだ。
「兄さん、元気だった?レウ、ずっと元気!」
 レウコトリカは倒れたままの兄の上でかれの胸に頬擦りした。周りの野次馬たちは「なんだ兄妹か」「アルビダの兄妹ってあそこまで似ないものなのか?」「やれやれ真っ昼間から」と口々に言って去っていった。
「ああ、元気だったさ…」レウカドは今にも死にそうな声で言った。「前も言ったけど外でこうするのはやめような」
 妹は元気に返事をすると、兄の華奢な腕を引っ張り上げて立ち上がった。今度は勢い余って兄が妹の胸に顔を打ち付ける結果になった。
「おい!ねえちゃん、船の金払ってもらってねえぜ」
 レウコトリカの後ろから、船上で談笑していた髭の汚い男が駆け足で呼び止めてきた。
「船長に言ってやって乗せてやったんだ。無視すると海賊の仕打ちは怖いぜ」
「そうなのか?」
 レウカドは妹の胸から顔を離して彼女に問いかけた。
「あんた、こいつの兄貴か?ほんとに似ねえ兄妹もいるもんだな」歯の揃っていない口をあんぐり開けて、髭の男は言った。「まあいいや、払えねえってんなら兄貴に集るまでよ」
 レウコトリカは首を傾げて腕を組んだ。
「船、ようじんぼうなら、乗せてもいいって、船長言った」
「タダでか?」
「タダ!」
 白い女は元気よく答えた。その笑顔に曇はない。
「妹は用心棒としてあんたたちの船に乗ったと言ったが本当か?」
 髭の汚い男は膝から崩れ落ちてレウコトリカの足にしがみついた。
「すまねえ、ねえちゃん…騙すつもりはなかったんだ…親方に頭が弱いあいつなら騙せるから金ふんだくれって言われて…で、あんたのあまりの無邪気さに騙せねえと思って…」男は涙ながらに訴えた。「おれ、あんたから金をもらえねえと親方に首飛ばされちまう…」
 妹の太腿の間に顔を埋める海賊の男を冷ややかな視線を送りながら、レウカドは懐から商売道具の煙草を取り出そうとした。それを見たレウコトリカは兄を止めた。
「払うよ、レウ、自分で払う」
 彼女は腰につけた皮袋に手を突っ込み、どこで手に入れたのかわからない色形様々な宝石を中から取り出した。
「これで足りる?」
 男は宝石を目にすると、宝石ごと彼女の手を握手した。
「足りる、足りるとも!ありがとうねえちゃん!」
 レウコトリカの手から宝石を受け取ると海賊の男は速足で船へと戻って行った。レウカドはそれを見て舌打ちし、妹の頭を撫でた。撫でられた妹は眩しい笑顔で兄を見た。

「ひさしぶりの兄妹の再会だ。ドレスタニアで着るドレスでも買ってやるよ」
 二人の兄妹は恋人よろしく寄り添いながら話している。その不釣り合いで目立つ見た目が道行く人間の目を奪う。
「えー、やだ!レウ、これがいい!」
 レウコトリカは露店の焼き魚を指差すと、兄に水色に光る瞳で訴えかけた。
「わかった、それを食べながら街を見よう」レウカドは溜息をついた。「いいか、妹よ。都会では都会のスタイルがある。男は職業や地位に見合った服で女はどんなときもドレスにルージュだ」
「ん?」肝心の妹は焼き魚を口にほおばっていた。「レウ、ドレス嫌いだよ!でも、兄さんの服、すき!」
 兄はやれやれと顔を拭う仕草をすると、妹の手を引いて街へ向かった。

 街にある大きい婦人服の店へ、医者風の男と蛮族の女が入店した。あまりにも異様な二人で見かけた人間に大きなインパクトを与えただろう。
 男のほうは比較的派手目なドレスを次から次へと女に試着させああでもないこうでもないと悩んでいたが、女の方は不貞腐れた顔をして丈の合わないドレスに袖を通していた。結局、買っていったのは一着だけで「妹に合うサイズがない」とクレームを付けて出ていった。


後書き

妹レウコトリカの登場、生まれつき頭が弱いというわけではなく、しかるべき教育を受けてないだけです。好き嫌いはハッキリしていて、自分の善悪もわかりますが、相手から向けられた悪意には気づきにくい子です。思ったことをそのまま口に出してしまうタイプ。体術や自然でできた素材の武器を使って戦います。槍が一番似合う…

兄との出会いは後日書けたらなと思います。

能力については、妹は幻術の使い方がわかってないというか、人間相手には使わずに凶暴化した動物たちをおさめるために使うことが多いです。人間相手に使うことは難しいと兄から注意されています。
 

企画元

Parallel Factor Cultivate Server
@id:nagatakatsuki