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記事に猟奇的、同性愛的、表現が含まれることがあります。

晩餐

 アルビダの兄妹、レウカドとレウコトリカは夕食を摂ろうと都市部を訪れた。古いながらも小綺麗にされている門構えのレストランはレウカドが昼夜の食事に世話になっている店だ。店主は種族差別の薄い人間で妖怪のかれも快く受け入れてくれた。妖怪の見た目だけで判断されて門前払いの店が多い中、ここは街で密かに暮らす良識な妖怪が一日の喜びをここで済ませている。この中でもレウカドは質のいいほうではなかったが、かれは少なくとも良識な人間には手出ししない。
 気前のいい店主はめかしこんだレウコトリカを美人だねと褒めた。レウコトリカは不思議そうな顔をしてから、にこりと微笑みかけた。彼女の兄レウカドが選んだのは肌の色と対照的な夜色の細身のドレスだった。光沢のある生地に散りばめられた小さな宝石が星空を連想させ、右足部分に深いスリットが開いた先には銀色のミュールが覗いている。
 そんなどこに出しても恥ずかしくなくなった妹の前に、大きな肉の塊が置かれる。香ばしく焼けた肉の色と脂が溶けて照明の光を反射している。レウコトリカはそれに釘付けになった。すっかり大人になった顔に子供のような笑顔を浮かべているが、眼は獲物を捕えた獣のそれに近い。兄レウカドの前には、彼女の肉よりも半分、いや、それより小さな、一欠片と言ったほうが正しい塊が緑の野菜に囲まれてそこに存在していた。
 レウコトリカは店主にお礼を言うと、フォークを鷲掴んだ。それをみていたレウカドが静止させる。
「右手にナイフ、左手にフォークだ」
 彼女はフォークを掴んだ手を下げると、ナイフとフォークを持ち替えた。兄の指示を聞くため手を止めているが、顔は肉に向けたままである。妹が道具を使って食事をとれるようになったのはここ数年である。今日こそは完璧なテーブルマナーを教え込もうと、レウカドは意気込みを感じていた。
 まず、レウカドが手本を見せる。フォークで軽く肉を押さえ、ナイフで口に入れる分だけ切り離す。フォークでそれを口に運ぶだけだ。それを見たレウコトリカは兄の真似をしようと、まずフォークで肉を獲物にとどめを刺すように突き刺し、見えない骨を断つようにナイフを押しつけ、肉を切っていた。圧力のかかった刃は肉の下の皿まで斬ろうとする勢いだ。皿が軋む音が聞こえる。レウカドは慌てて妹を止めた。
「…優しくなぞるように切るだけでいい」
 レウコトリカは言葉を理解していたがどうにも力加減が上手くいかずに、口に運べたのはほんの切れ端程度で、皿の上では藻屑と化した肉が散乱しているという感じだ。レウカドはやれやれと両手で顔を覆うと溜息をついた。
「ごめんなさい…」
 レウコトリカは目の前の惨事に目を落としながら兄に謝った。レウカドは手のひらをレウコトリカに向けると、ひらひらと振った。
「気にしなくていい、まだ時間はあるのだから」
 かれはグラスに注がれた赤い葡萄酒に口を付け、心を落ち着かせた。

 レウコトリカの前に店主が果物を使った生菓子を持ってきた。「サービスさ」と兄に向かって言うと、妹のほうにウィンクをした。レウコトリカのさっきまでの浮かない表情はたちまちに晴れ、いつもの彼女に戻っていった。レウカドは店主に礼を言うと、妹との会話を試みた。
「サグヌ草はくしゃみの原因ではないと?お前が見つけたのか?」
 赤く小さい果物を大事そうに食べる妹は本来の目的を思い出し、慌てて果物を口の中にほおりこんだ。
「海賊、ベリエラの海賊、見つけた」
「海賊が見つけた、なにを?」
 この問にレウコトリカの顔色が変わった。目は強張り、首筋の毛には緊張が走っている。なにか、思い出したくないものを思い出したように。レウカドにもそれが伝わってきた。
「かいぶつ、いいかいぶつじゃない、こわい、かいぶつ」妹は拙い言葉でぽつりぽつりと話し始めた「かいぶつ、くしゃみの原因、ひどいくしゃみ、レウみたの、ひとがしぬ、たくさん、あいつのちから。レウ、残りの海賊助けた、レウの隠れ家いる。レウ、動物たちに伝えた。危険だから家に帰れって」
 妹は身震いして自分の体を支えるように抱きしめた。よほどその光景が恐ろしかったのだろう。レウカドは話すのをやめさせて残りの生菓子を勧めた。
 酷いくしゃみ、この流行りの鼻風邪の症状とは似ているがそれを怪物が発せるのか…それで人間が死ぬ。殺傷能力に優れた流行病と怪物。レウカドは深く考えていた。すると、生菓子をついばむように食べていたレウコトリカがあっと声を上げた。
「どうした?」
「トイレいきたい」
 レウカドは呆気にとられたまま、トイレの場所を指さした。
「赤いほうが女用だからな」
 かれの誉ある妹は元気にうなづくと履きなれないミュールと格闘しながらトイレへ向かった。

 そのころ、ベリエラとドレスタニアを繋ぐ海路の上を滑空する者がいた。不穏な覇気を蛾のような羽根に背負い、この世のものとは思えない異形。なにが目的で奴の存在はなにを意味するのか、物語は後半へと続く。

後書き

時系列としては、紫電さん御一行がベリエラで蛾マンを見る。それをみていたレウコトリカ→レウコトリカ海渡る~ドレスタニア(レウコトリカSS)→これ→蛾マン、ドレスタニア到着。みたいに考えてますけど、間違ってたらすみません!
兄妹が蛾と関わるのはここだけかなと思いますが、蛾を倒すときはレウカドお兄ちゃんは無理だけどレウコトリカなら戦力にはなるかなって感じです(お兄ちゃんに内緒でね!)レウコトリカちゃんの特技はやり投げ、弓矢、追いかけっこ!です。危機察知能力に優れて目と耳と鼻が良いです。防御と精神力はあんまりないです。打たれ強いけど。
たぶん次のSSはふたりの過去編になるんではなかろうですか?わからないでし!SSいそいで書きすぎて脳みそ溶けました。ゆるゆる行こうと思います。